中・高校・一般公演 〈劇〉90分

ぼくの好きな先生

-希望へのあこがれを捨ててはいけない-

ストーリー

教師であるの河合優の部屋には、謎の男子中学生・馬場が住みついている。馬場は実家にも帰らず学校にも長い間行っていないらしい。河合は元同級生で婚約者の玲子の妊娠を機に引っ越しを計画していたが、断念する。それにはどうやら馬場の事が関係している風である。そんな時、部屋の本棚の中から偉人たちが現れる。夏目漱石の「坊っちゃん」、「奇跡の人」のアニ―・サリバン、「いまを生きる」のキーティング、コルチャック先生、イーハトーブの宮沢賢治…古今東西の有名な先生たちだった。それらは、自身が学生時代に関わった「いじめ」の影を引きずって教師になった河合先生の苦悩が生み出した幻想だったが、憧れの先生たちとの対話を通して、河合は自分の進むべき道を見つめ直そうとする。憧れの先生たちは、いじめにあって不登校になっているらしい馬場に心を開かせて問題に取り組み、いじめを解決しようとするが、なかなかうまくいかない。そして馬場の口から衝撃的な言葉が発せらせる。

制作意図

「学校にあなたの居場所はありますか?」
自殺のリスクは「生きることの促進要因(生きることを支える要因)」よりも「生きることの阻害要因(生きることを困難にさせる要因)」が上回ったときに高くなると言われています。
ですが現状は、自己肯定感や将来の夢、信頼できる人間関係といった「促進要因」は得づらく、いじめや虐待、経済的困窮といった「阻害要因」を抱えやすくなっているように思います。
「いじめで自殺」というニュースに触れるたび、「阻害要因」ばかりが取り上げられますが、もしも傍にそのことを真剣に話せる人がいれば、もしも学校や生活の場に居心地のいい場所が確保できていれば、「促進要因」が「阻害要因」に打ち勝つことができたのかもしれないと思わずにはいられません。
「ぼくの好きな先生」は、見終わった後に、「いじめ」について皆で話し合えて、生活のふとした瞬間に芝居の一場面が、台詞が胸をかすめるような、そんな観劇体験となれば、という思いで企画されました。

スタッフ

脚本・演出:谷藤 太 照明:伊東 孝則 制作:劇団トマト座
音響プラン:井出 比呂之 美術:牧野 紗也子 協力:劇団enji

作者より

「止まない雨はない」
学生がいじめで自殺したという報道に接する度、この言葉が浮かんできて胸が痛みます。
どうして未来ある若者が死を選ばなければならなかったのか、他に方法はなかったのかと悔しくなってしまいます。
 ですが、それは雨がやんだ後の晴れ渡った景色を実際に見てきた大人だから言えることばであって、土砂降りの雨の中で震えている若者には想像できないのかもしれません。
 ずぶ濡れで動けない彼や彼女に「止まない雨はないよ」と言葉をかけて傘を差し出す。そんな先生や仲間がいたらどうだったでしょう。
 たとえ傘がなくても「屋根のある所まで一緒に走っていこうよ」って声をかけられたなら、素敵な虹を見られたのかなと思ってしまいます。
 時と場所を飛び越えて、古今東西の有名な先生たちがそれぞれのやり方でこの問題を解決しようと四苦八苦します。
 この作品は、中学高校と多感で傷つきやすい時期にどう向き合いどう乗り越えていくかを、けっして重苦しくなく多面的に描いています。
 もしも雨で困っている彼や彼女のことを見かけたならばこの劇のことを思い出してくれるような、そんな観劇体験になればと願います。

谷藤 太